みなさん、見なかったかもしれませんが、松もあけたというのに昼日中から暇なわたしは、夕方4時からNHK-BS2で「グランド・グルメ/ヨーロッパ食材紀行/ウナギの味はテムズの流れとともに』というのを見ました。
●Eel Pieの真実
勿論わたしの曲の中に『Eel Pie Island Song」というのがある通り、わたしはうなぎパイが大好きです。というか、EEL PIEについてはひとかたならぬ思い入れがあります。なんでかって、もう聞かれても答えるのが大変なんだけど・・・
何のことか知らない方のためにちょっとだけ説明しますが、「うなぎパイ」といっても、浜松の名物ではありません。ロンドンの西の方にあるテムズ川にある小島と関係してますです。詳しくは、別ページにある『もうひとつの「英国フード記A to Z」』の中のVol.6『マーケット』の巻とVol.7--『観覧車に乗ろう』の巻、をご覧ください。同時に「英国フード記A to Z」(石井理恵子著:松本里美版画)をお持ちの方は、『E』の項を開いてご覧くださいね。より詳しくわかります。
食べたことがないとなかなか理解できないあの味・・・・・あの形態・・・・2005年に本の取材のために石井さんとわたしはロンドンを訪ねました。『E』の項は、最初っから「うなぎ」と決めていたわたしたちでした。調べれば調べるほどおもしろいイギリスのうなぎ話。これがイギリスのR&Bと結びついていなかったのなら、それほどでもなかったかもしれないですが、これがまた楽しい繋がりがあったために、わたしの想像と妄想は広がる一方となりました。そして、できたのがかの名曲『Eel Pie Island Song」であります。わたしは、曲ひとつひとつもの凄くしつこい思い入れを込めて作っているため、出来上がったあとでもたくさん遊べますねえ。
とはいえ、この曲にはうなぎはまったく現れないので、すまないです。 ギターが弾きたかった(最初のフレーズの)というだけの、ギターありきの曲です。
曲のことはともかくも、食べ物も好きですから、イギリスでいうところの「うなぎパイ」とはどんなものなのか、経験せずにはいられなくなったのでした。ハッキリ言って、あの時の目的はこの「うなぎパイ」と「グレービー・ソース」に尽きていたと言ってもよくって、どっちも曲にしたので、わたしはやり尽くした感がありますー
実際にある「Eel Pie Island』で、わたしたちは『Eel Pie』と看板に書かれていたパブに入り昼食をとりました。しかし、そこの主人が言うには、昔はあったが、今は作ってないし出してない、とのことでした。これには多少ガッカリしてしまったものの、店に飾ってあったBlue Willowのお皿など見つけ、それはそれで満足しました。
「うなぎパイ」の形態はどんなものだったのだろうか?という疑問はずっとあり、ロンドン在住の現代美術家:横溝静さんが事前に調べてくれていた老舗のうなぎ料理やというのを楽しみにしておりました。イーストエンドにあったうなぎ料理の店の看板メニューは「EEL & MASH with LIQUOR」です。これは四角いミートパイのようなものに緑色のドロッとしたソースがかかっていました。味は、英国の方には申し訳ないけれど、オエ・・・・っとなるものでした。3人とも完食不可能でした。
しかし、客はたくさん来ますよ。人気のお店です。
●このソースは一体何なのか?
●
何故「Eel Pie」と書いてあるのに「肉(らしい)」なのか?
●今は作られてないとして、実際の形態はどんなものだったのか?
という疑問は、実は最後まで解決されないままでした。でも、我々の取り組み方は相当評価されても良いと自負しておりますよ〜。それと同時に「うなぎジェリー(Jellied Eel)』も実食したのですから、イギリスの伝統的うなぎ料理は完璧にクリアしたと言ってよいのでありますー。
しかし、コレも完食ならず・・・・・
番組は、最後の新しいうなぎ料理はまったく興味はなかったけれど、そのほかはわたしの疑問に答えてくれるものとなっていて、もしかしたら、これ制作した人は、「英国フード記A to Z」読んでるんじゃないのか?と思いました。わたしは多分読んでると思いますよ。
番組ではまず、このイーストエンドに40もあるという「EEL & MASH with LIQUOR」屋の一つで1862年創業という店『クック』の4代目ボブ・クックさんの料理風景から始まりました。が、その前に、まず第二番目の疑問から。何故、パイの中はうなぎじゃなくて肉なのか?
番組の説明、そしてパイ&マッシュクラブのおじさんの話では、
最初はうなぎが入っていた。産業革命でテムズは流通の最前線で活気にあふれ、そこの港湾労働者は華であった。そのテムズのうなぎと労働者の栄養源としてうなぎパイは流行した。その後第二次世界大戦を経て、戦後うなぎは高くなり、肉が安く手に入るようになったため、肉にとって変わられてしまった。
ということなのでした。
やっぱそうゆうことなんですね。しかし実際に食したパイの中の肉は得体知れず・・・・のものでしたよん。労働者が気軽に食べられるような安いお肉なのでしょう。
番組でも言っていたけれど、このイーストエンドというのはテムズのドッカーズたちが集まるところで、昔はたくさんうなぎがとれ(今はオランダとアイルランドからの輸入が多いんだって)、このあたり特有の料理食材だったんですね。港湾労働者の栄光の時代そのものの料理です。重要なタンパク源でもあったんですよね。そしてパイ&マッシュとジェリード・イールの二つがその代表的料理だったんですよ。『もうひとつの「英国フード記A to Z」』のVol.11:『鰻パイ島&ロックな日』の巻でも書いてますが、サックス奏者のロル・コックスヒルも、おとうさんがセーラーマンだったから鰻は食べたよ〜、と言っていたもんねえ。
ああ、おもしろい。こうゆう取材って楽しいですねえ。
番組で料理を作っていたオジサンの店では、「EEL & MASH with LIQUOR」はまさにそのようになっていて、パイにパセリソースがたっぷりかけられ、横にマッシュポテトがエベレストのように積み上げられています。そして、ぶつ切りのうなぎが数個ソースに載せられます。わたしたちが入った店では、パイ・ソース・マッシュ、またはうなぎ・ソース・マッシュと、別個になってましたねえ。店の様子をみると、みなさんモルトビネガーをバシャバシャかけてます。胡椒もかけてましたね。
そしてもうひとつの疑問、このソースって何よ?ですが、このパセリソースは店によって秘伝となっているようです。と、言いながらも、このオジサンはすべて見せてくれてました。見れてよかった〜〜。
お湯にたっぷりのパセリを入れる。少し塩。そこにたっぷりの水融き小麦粉をぶち込み煮込む。
石井さん!!これっきり〜これっきり〜、これっきり〜ですよ!これだけだったんですよぉ〜
これだけだってのに、オジサンは真面目な顔をして「お湯が沸騰してなくちゃ駄目なんだよ。小麦粉がダマになってトロみがつかないからな」と、さもこれが秘伝かのように大いばりなんですよぉ〜。石井さんはずっと「パイよりもこのソ−スがまずい!ただの粉だ!」と言ってましたが、本当にその通り、それだけでしたよぉー。
このクックさんのお店のソース(リカー)はフレッシュパセリが自慢というだけあって、たしかにグリーンがヴィヴィッドでしたけどね。
●Eel Pieはどこへ?
肝心の「Eel Pie」というのはどこへ行ってしまったのか?店で出ているのはもうミートパイです。それにうなぎの混ざったパセリソースをかけている。これをもう一般的に「Eel Pie」と言っている、というわけです。私たちが一所懸命さがしてもなかったわけです。
番組ではわたしたちが言ったお店も紹介されていて、本当に嬉しかった!あの時と同じように緑色のワンピースの店員さんたちがいて、たくさんの家族連れがビネガーバシャつかせて食べてました。そこで家族で食事していたおじさんが「パイ&マッシュクラブ」というのを作って、お店の紹介などをしているっつーんですよ。そのおじさんが昔ながらの『Eel Pie』を自宅のキッチンで作ってくれました。いや〜、見れてよかったです〜
形は伝統の四角です。考えてみれば、パン屋で売ってるミートパイってだいたい四角ですよね。あれが基本なんだな、きっと。そこにパイシートを敷き、うなぎのぶつ切りを数個入れて、パイシートで蓋をして焼いて食べてました。
うなぎは月桂樹とペッパーとパセリで5分ほど煮ます。骨と皮は丁寧にとる。そこに肉汁(ビーフスープ)を入れる。260度のオーブンで焼く。パセリソースなんかはかけず、塩とビネガー少々で食す。
元々の料理です。パリッとしててなかなかおいしそうですよ。石井さんも言ってましたが、あのソースがまずくさせるんじゃないのかなあ!?!?
そして、そのオジサンはやはりテムズのドッカーズで、彼らの集まりの様子も紹介されてました。毎週月曜日集まってる。みんな70歳以上です。ジェリードイールがたくさん出てました。みんなエール片手にこれをつまんでます。これにもやはりモルトビネガーと胡椒をたっぷりかけていましたよ〜。
19世紀末にこのパイが流行ったころには、「フライング・パイ・マン」という職業の人が大流行したのだそうです。なんだか、マザーグースに出てきそうで、楽しいですね。マザーグースの「ホット・クロス・バンズ 」みたいに、歌もきっとあったに違いないですね。ああ、知りたい「フライング・パイ・マンの歌」。必ずあったハズなんですよね、売り子だから。
というわけで本当にスッキリしました。3年半ごしの疑問が解決できました。
もしもまたロンドンに行くことがあったとしても、これを食べる勇気はわたしにはもうありましぇん。
でも、みなさんは、是非イーストエンドに行ってくださいね。そして「EEL & MASH with LIQUOR」食べてみてね。
ついでにジェリードイールもね。
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