●六日目●

六日目は一番楽しみにしていた場所の取材。
取材といっても、わたしは絵を描くだけなのですけどね。でも、やはり雰囲気を味わうのは大事なことですよね。
何も見ないで描く、というやり方もあるだろうし、なんとも言えませんが、ここだけはどうしても肌で空気を感じておきたかったのでした。

(日記に載せていたものなので、一部書いた日のことが書かれています。また、新たに加筆しています。)
■EAT & MEET in LONDON ■
Vol.11:鰻パイ島&ロックな日
12/July-tue


EEL PIE ISLAND

きょうはやっとギターの本格練習に入る。アコースティックとエレキと両方練習。エレキギターの方は、今月の円盤ライヴに向けて、『ある時期たくさん演奏したのに、今ではまったくやらなくなった曲』というのを練習。アルバム「ノンポジション」に入っている曲なので、それをヒトサマの曲のように感心しながら聞いて、どうやってこのコードは押さえるのだろうか?こんなに速くは弾けないわよぉ〜、と頭を抱えながら練習。突然指をどうやって動かしていたのか身体で思い出すことがある。思い出してみると、自分の癖がよくわかって笑える。アコースティックの方では、エレキでしかやったことがない曲をやったらどうなるのか試してみる。うまくできないものもある。アレンジを変えてどうのこうのという問題ではなくて、どうしてもエレキじゃなきゃ嫌だ、という曲もあるのだなぁ、と思った。
飛行機の中で見た映画「ライフ・アクアティック」の中で大人気のボサノヴァ歌手セウ・ジョルジがガットギター抱えてかっこよくデヴィッド・ボウイの「ジギー」曲をたくさん演奏していたけれど、あの人のオリジナルのように聞こえて良かった。行きと帰りと2回見てしまったゾイ。
05/8/4記

やはり、音楽にまつわることは楽しい。
ロンドンでとても楽しみにしていたことの一つは、ロンドンの西の方、ティッケナムにある『EEL PIE ISLAND』に行くことでした。狭くなっているテムズ川のその中洲にある小さな小島です。17世紀ころは鰻を入れるためのバスケットを作っていたらしいのですが、その後は夏のヴァカンスに人が集まるようになり、レガッタクラブもできて栄えたそうです。それでホテルも作られたようですが、このホテルは「EEL PIE ISLAND HOTEL」とそのまんまの名前です。今はもぅありません。1960年代にはローリング・ストーンズをはじめ、たくさんのバンドが演奏しに来たところなのです。ストーンズとザ・フーはこの街でとても愛されています。愛されていると同時に今でもこれらのメンバーたちはこの街に特別のプレゼントをしているようで、とても素敵な話しがいっぱいあります。本の中でティッケナムのミュージアムのサイトの抜粋が書かれていますので、そちらをご覧になってください。食べ物だけじゃなくて音楽が好きな方も、きっと楽しめる本になっていると思います。

この島のこのホテルはそんなわけで、「ブリティッシュロック発祥の地」となっとるのよ。ウワ〜イ、楽しい。

実はこの日、この島を訪れたあとにコヴェントガーデンの方へ戻り、そこでロル・コックスヒルと会うことになったのですが、ロルからもこの島について楽しい話が聞けました。

では、写真鑑賞タイムです。

まずは朝ご飯。クリームチーズやヨーグルトは種類が豊富だし、安い。ローファットの物がたくさんでてるけど、量をとれば同じことねー。

泊まっているおうちの庭にリスがやってきました。

さて、ロンドンの西のティッケナムに到着。バスで行きました。橋の向う側が島です。歩いていけるのはこの橋だけです。
とても静かなところです。島の造船所が見えてます。

島の中から入った造船所です。

橋を渡ると10軒ほどクラフトスタジオがあります。ここは鉄細工をやってるところだね。橋を渡ったあたりはアーティスト村になっています。
アーティストヴィレッジ。このような掘建て小屋が数件。 みんな手作りみたいです。 ここもスタジオ。陶芸や油絵など様々です。
前庭に人形がたくさん埋まってる・・・おサイケなアーティストの家。 橋を渡って小道を少し歩いて右側に木の塀。今は高級そうなアパート「アクエリアス」が建ってますが、ここに「EEl PIE ISLAND HOTEL」はありました。 前庭です。木に覆われています。とても静かでしたが、40年ほど前はホテルの中でたくさんの人がダンスフロアをゆるがしたのでした。
島の半分は小鳥の住処です。
ほらほら歌ができそうなところでしょ?
橋はこの橋ひとつしかありません。ホテルで演奏するバンドの人たちもみんな機材をエッチラオッチラ歩いて運んだんですね〜。
勿論自動車は入れません。

看板。
プライベートアイランドです。

岸の方も静かで、古い家並みが続いています。ここは劇場です。

ティッケナム博物館。ここも小さい。中庭も小さい。でも鏡を利用してたりして工夫してます。
みんな小さいのか?!床もかしいでますヨ。

ここが気に入って仕事をリタイアされたあと2匹の猫と対岸に住むようになったサコウエミさん。博物館の案内もボランティアでされています。島やパブを案内していただきました。 ロックにもくわしい素敵な方でした。
マーマイトにスクランブルエッグをのせるとおいしい!とレシピも教えてくれました。
その名も「EEL PIE」というパブにはいりました。食べ物の取材できたと言ったら満面の笑みで店主は答えてくれた。いろんな種類のビールがありますね。動物柄が多い。イタチやアナグマなど。 ビーフシチューです。ビールに漬け込んで煮たのだとの説明。ビール煮とはまた違うのかな。ビールに漬けるとお肉は柔らかくなりますね。とても美味しかったです。 こちら「FISH & CHIPS with Pees」。ここのはほどよい大きさで、コリアンダーが少しのっていて油っぽくなく上品な味でした。
テーブルにおかれているHEINZのポーションですが、イギリスらしく、「モルトビネガー」「イングリッシュマスタード」「ミントソース」などがありました。「モルトビネガー」はFISH & CHIPSにかけて食べます。わたしは好きだけど・・・。 このパブの飾り棚でWillow Pattrenのお皿を発見。とても深いブルーで、良い絵柄でした。 通りにあったとても古いパブの看板。

街のライヴハウス&パブ。
「EEL PIE CLUB」

きょうの出演バンドが書かれてます。5£。1000円くらい。円盤のライヴみたいですね。 きれいな街並。右看板に「EEL PIE」と書いてあるパブに入りました。


チャリングクロスにある大きな本屋「FOYLES」に隣接しているCD-SHOP&CAFEで待ち合わせしました。

渋いっすね。でも、息子さんがやってるパンクバンド(クソ、とかオナラとか、そんな名前)の話しになると俄然うれしそうで饒舌になるのでした。JAZZ CAFEでは月に2度演奏しているとか。

 
「Lol Coxhill on Ogun」、ポーツマス出身だから、ということでセーラーマンのジャケット。右、開いたところの絵は娘さん6才の時のもの。 これディスクユニオンのでした。

まん中「TORSTEN MULLER PAUL RUTHERFORD MILWAUK33 2002」。トロンボーンとダブルベースの3人編成。左のが「ALONE AND TOGETER」チェロとヴィイオリンとハーディガーディの人とのもの。どれも即興です。

きょうは、一気に一日分いっちゃいますから。

ティッケナムからロンドンの中心へまた戻ってまいりまして、たくさんの人のご協力のもと、めでたくフリー・インプロヴィゼーションのサックス奏者ロル・コックスヒルおじさんに会うことができました。
数日前にお茶をしに行った老舗本屋『FOYLES』の2階にある「Ray's Jazz Cafe」です。通りの壁にもたれて約束の15時にロルは待っていてくれました。すぐにわかったので近寄って握手。いやはやお懐かしい。昔お会いした時は恰幅の良い方という印象でしたがちょっと小さくなってました。わたしも6kgは太ってるんでひとの事は言えないんだけどね・・・。
いろんな話しをしました。突然段ボールの蔦木俊ちゃんからあずかった『この世に無い物質』も無事に渡すことができました。蔦木栄一さんが亡くなったことを話すと、
 「栄一のことは良く知っている・・・う〜ン・・・」と唸ってました。
 「『この世に無い物質』は栄一さんのLAST WORKです」、と手渡しました。亡くなったのはこの日のような暑い日でした。
サボテンの『ノンポジション』ほかも渡す。その場であけてブックレットの中にある昔のロルとサボテンの写真を見せたら「若い!」というので、「お互いにね」と言っておく。(昔の写真はココ

「ロルのCDは日本じゃ見ないなぁ」、と言ったら、スックと立ち上がって、店の方に行って5枚自分のを持ってきました。ここのカフェはCD屋と一緒になっているのですが、JAZZ、WORLD、TRADが中心。1枚づつ説明してもらって、どれか買うからお薦めはどれだ、と聞いたら、どれもみんな違うタイプでなんとも言えないというので悩みつつ3枚買いました。「買わなくてもいいのに・・・あげたいけど、自分でも自分のCD持ってないから・・・」と言っていた。らしい、よね。

今はどうしているのか近況を尋ねました。サイトは娘さんがきれいに作っていて、日本からのコンタクトも娘さん経由でした。もうひとりの娘さんはロルのCDの中で絵が紹介されてます。また、息子さんがいらっしゃいまして、「ウンコ!」みたいな名前のパンクバンドをしてるんだって。この話をしてる時が一番楽しそうでおかしかった。しょっちゅう「Ray's Jazz Cafe」では演奏しているそうです。そのほかは田舎にブラッと行って本を読んだりして過ごしてるみたいですよ。いい感じです。

「英国フード記」著者と取材もかねてましたので、ついでに食べ物の話しを聞いちゃおっと。まず出身地を聞く。出身地で食べ物も違うのじゃなかろうか、と思ったのだけど、これが当りで、ポーツマス出身。お父さんはセーラーマンだったので鰻料理は食べたことがあるとのことだったけど、嫌いみたい。マーマイトもそんなに好きじゃないって。

なんといってもこの日はEel Pie Islandに行ってきたわけですから、当然わたしにはせねばならない質問が沸き上がってました。
Eel Pie Hotelではどのくらいのバンドや人が演奏したのでしょうか?燃えて無くなるなでの間には、ここで一旗あげて出ていった人もいるだろうけど、ほとんどの人は有名になりたくてここに出て、でもやっぱりどうにもならなくてミュージシャンにはならなかった、というありがちな話がゴロゴロしているのだろうと想像したりしていました。
Eel Pie Islandからロルに会うまでの道すがら、ロルの正確な歳は知らないけれど、年齢的に見て、そして、流行りのR&Bバンドでもサックスを吹いていたとどこかに経歴が書いてあったことを思い出して、おそらくロルはこのホテルで演奏した経験があるに違いない!と確信しておりまして、「Eel Pie Hotelに出たことある?」と聞いたんですよ。そしたら、ヤッタ!!「R&Bのバンドと一緒にそのホテルで演奏したことがあるよ、30年以上も前だ」と。ほらほら、ねー。Eel Pie Hotelは1971年に燃えてしまい、今はもぅありません。感慨深いです。


1902年ころの『Eel Pie Hotel』


感動もひとしおのわたしでしたが、エーイ、ついでじゃあ、と
 「ハイナー・ゲッペルスのCD売ってる店知らないか?」とまたもや唐突に聞いてみた。これは、ずっと欲しいと思っているものなので、あそこで買える、ココで買えるといろんな人からヒントだけは頂いているものの、腰が重くてなかなか動けず、今だに手にいれてないものなのです。ああ、聴きたいなぁ。大人数のブラスなんですけど・・・。
なんだか通じなくて「ゲッペルスのは何枚か持ってるが、なんというアルバム名だ」と聞かれる、が、「ゾーゲナンテス」というバンド名は思い出せても、長ったらしい「左翼的〜〜〜〜」というタイトル、もともとドイツ語だし、教えることができない。てなわけでこれは解決できなかったのでした。残念。この店にもなかった。多分ロルは持ってたと思います。

これでなんだか非常に満足してしまいまして、話すことも無くなってしまいました。CDにサインをしてもらったらドッと疲れちゃってぼう〜っとしていたら「サインしたらもぅ話もないんだな?」と意地悪なのだった。そうゆうわけではないが、どうにも違うところに想いがいってしまってイカンのでした。
あしたからわたしたちはウェールズに行ってポニーにも乗るのよ、と言ったら、ロルもしょちゅう田舎に行っているのだ、田舎が好きだと言っていた。ロルは直前までカナダにツアーに行っていたそうなので、「日本にもまた来てね」といったら「呼んでくれよ」といわれ、「できるもんならね」と答えお茶をご馳走になり、握手してお別れしたのでした。ロルは今度は向かい側にあるもうひとつの大きな書店の中に入っていきました。

わたしがぼぅっとして違う想いに駆られていたのは、わたしが版画制作している「柳ホテル」というシリーズの中の「The Wonderer Band」という旅のバンドの絵についてで、この自分の絵とEel Pie Hotelがどうも結びついて離れなくなってしまったからなのでした。サボテン以外にわたしが始めているひとりでの音楽活動では、この「柳ホテル」に曲をつけているものが多く、この「The Wonderer Band」の絵につける曲として、これ以上に相応しいものはないような気がしてきました。
勿論、この時には曲は全然浮んできてはいなかったし、ただ漠然とこのホテルでR&Bを演奏していたバンドが意気揚々と島を出ていき、流されていく様子にしたいものだ、と思っていただけなんですけどね・・・・。

これが先日(06/3/25)のわたしの『Rockin'-Talkin' Slide Show!!』でやっと完成して演奏することができて、とても感慨深いんです。勿論タイトルは「Eel Pie Island Song」です。できあがるまで8ヵ月もかかっちゃったけど、実際にはライヴを手伝ってくれたギターの牧野くんとのリハも大詰めの頃やっとできあがり、歌詞はいつもの事ながら前日完成。このリハで、突然ベタベタの、しかしストーンズのデビューアルバムのブライアン・ジョーンズ風R&Bギターソロ、というのを思いつきまして、せっかくギタリストがいるわけですから、まん中でいっちょやってもらおう!と思ったしだいです。R&Bはここだけで、あとはノスタルジックに・・・・という感じです。曲を作るのは早いと思うのだけど、気持ちが盛り上がるまでがものすごく時間かかるもんで、本当に1曲作るのも大変です。
機会がありましたら、いつかまた演奏します。(06/3/29記)

この日の締めくくりはミュージカル「メアリー・ポピンズ」。
まだまだ明るい空ですが、7:30です。

プリンス・エドワード・シアターです。ここは内装がすんばらしかったです。壁やガラス戸などほとんどが1930年ころのアール・デコ様式。
廊下にはジョセフィン・ベイカーの写真などが貼ってありました。

DRESS CIRCLE席25£。高〜〜い場所で安い席です。踊りも美術もみんな楽しめました。
映画のイメージが強い作品だけど、やっぱりディック・ヴァン・ダイクの役の人は似た感じがした。好きなので似ててよかった。

先日、Eel Pie レーベルという名前のレーベルも持っているTHE WHOのロックオペラ「TOMMY」のブロードウェイ・ミュージカル版を見てきました。全然盛り上がらなかったです・・・・・。それにくらべて、この「メアリー・ポピンズ」のなんと楽しかったことか!半分の値段でも10倍楽しかった。そういえば、ストーンズも来てたものね・・・Eel Pie Hotel出身者、現在進行形です。(06/3/29記)




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2006 (c) Satomi Matsumoto