きょうも好きなものを書く
帽子
海外のSF,ミステリー本
うえむらりょうこさん作の帽子「雪の日のキャスケット」
ジェローム・K・ジェローム『ボートの三人男』
表紙も良いです。わたしも描きたい。
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●ふわふわの帽子
なにかと谷中〜千駄木〜根津に行く用事がある昨今であります。数日前にはシェパーズパイのホームパーティに行き、きのうはうえむらりょうこ『R.ECHO帽子展』に。日暮里から谷中銀座を通るとどうしても『ちぃ散歩』な気分になりますなぁ。ついつい小さなお店をふらふら見てしまうので、予定時間オーバー。『雑布きんじ』というお店の中での帽子展でした。りょうこちゃんもいて、たくさんの立体的で物語のある帽子を被って遊んでしまった。で、今回はレース編みのペタッと縫い付けてある白いふわふわしたものを購入。「雪の日キャスケット」というタイトルになってました。レース編みのコースターや花瓶敷きをご近所のおばあさんによくいただく。とてもきれいなのでとってあるのだけど、花瓶敷きをするような生活にあらず。Tシャツに縫い付けてみようかな〜、と思っていたところだったので、この帽子はガッテンガッテンでした。楽しくおしゃべりをして予定時間大幅オーバーしてお別れしました。
●やっぱり今年もギリギリガール
そこから千駄木に行き、千代田線に乗れば工房まで一直線。このあたりは楽しいお店がたくさんあって、もっとゆっくりと歩きたいもんだ。道を間違えてまたまた時間オーバー。工房へは1時間遅れで到着。
さて、この日は8枚セットの作品の2枚目の版画を2枚刷って完成させ、3作目の試刷りまでこぎ着ける予定だった。しかし、1時間オーバーのため、必死!きのうで工房は今年最後の日だったのでどうしてもやらねばならぬのじゃった。試刷りをやらないと休み中に熟考できぬからのぉ・・・・。で、みなさんがどんどん後片付けする中、結局やっぱり今年も最後の最後まで作業していたのはわたしでありました。ああ、疲れた。ほんとうにほんとうに疲れた・・・・。肩がバリバリになった。3作目、猛スピードで刷ったわりには完成度が高く、これで平和に年を越せますわー。今年も工房ではいろんなことがおきました。でも、一番の想い出は、工房展オープニングでのタンゴダンサーとのコラボですねえ。ああ、あれは楽しかったわ〜
まとめに入る前に掃除しなくっちゃ・・・・きょうは台所をしました。鍋を捨てる。タイルを磨く。
●デヴィッド・イーリィ『タイムアウト』
きょうは新宿にいくつかの用事をしに行く。まずはピットインに行く。来年1月のノエル・アクショテの前売りを買いに行く。もう無くなってたらどうしよう〜、とディランの3月のチケットが危ういという情報があったので心配になっていたのですが、わたしの中ではディランもアクショテも大スターなんだけど、世間的にはアクショテはもっとマイナーなのかしらん・・?チケットすごく前の方の番号でした。とりあえずホッとする。それから目の前にある「世界堂」に行き、版画用紙を数枚購入。最近工房では世界堂で紙を買う人が増えていて、なんとしたことか、10枚購入予定だったのに3枚しか在庫がない!!我らの工房の人が買い占めたに違いない。
そこから南口タイムズスクエアの中の大人な喫茶店にて河出書房新社のIさんとデザイナーのKさんと会う。来月店頭に並ぶ文庫本「タイムアウト」デヴィッド・イーリィができあがってきた。原画の色合いそのままに発色よく版画らしい渋さも出ていて嬉しいー!ありがとうございました!久々の文庫本の表紙です。
ココでも買えます。書店には1月6日以降のようです。みなさまよろしくね〜〜〜
内容は 『英国に憧れる大学教授が巻き込まれた驚天動地の計画とは……名作「タイムアウト」、MWA最優秀短篇賞作「ヨットクラブ」他、全15篇。異色作家イーリイが奇抜な着想と精妙な筆致で描き出す現代の寓話集。
』となっております。異色作家シリーズというと早川のロングランシリーズが有名で、わたしはロアルド・ダール、ブラッドベリくらいしか読んでませんが・・・調べてみるとレイモン・クノーや「壁抜け男」のマルセル・エイメも入っていた。アントニー・バージェスもいた。そのアントニー・バージェスにも絶賛されたという作家です。アメリカ人ですが、英国風なブラックで皮肉で怖くておかしっくて不条理・・・といった感じ。
こうゆう本の表紙にお声がかかるのはとても嬉しい。好きだから。今までやった文庫の表紙が、実はすべてミステリー物だったってのはどうゆうわけだろう。今回は河出の方には「性別も国籍も不明な感じ」と言われたのがさらに嬉しかった。意識はしてないけれど、常にそうありたいと実は思っているもんだから・・・
オックスフォード大学でとある計画を練る英国研究家たちを版画にした。2版刷り。ちょうど英国制服本の絵をたくさん描いたあとだっただけに、服装は完璧ざんす!オックスフォードの図書館とロンドンのわたしの好きなランドマークを入れてみた。60年代の話なので、ロンドンアイは入れてません。が、バッターシーの石炭火力発電所は小さく入れてみた。原子爆弾による世界危機という内容なんで、なんとなく意味ありげで良いのではないか、とかロックな感じだし、とか作者としてはいろいろな意味を含めて描いているのだけど、おもしろがって見てくれる人が一人でもいたらいいな、と思います。
この編集者Iさんと ジェローム・K・ジェロームの「ボートの三人男」の話となった。
●『ボートの三人男』
この本は「異色作家短編小説」ではなく「ユーモア小説」とよく言われております。英国の本です。なんでそうゆう話になったかというと、たまたまテムズ川の近辺の地図を描く仕事があって、ラフを描いている最中に気になって引っ張りだしていたものなのであります。(大阪のKさんが確かお好きでしたね。どのあたりがお好きか聞いてみたくなりました)何が気になったかというと、この小説は3人の独身男がブルドッグと共にテムズ川を2週間ボートで旅するというもので、一体どこからどこまで行ったのか・・・・が気になったわけです。読んだ時にはそんなにロンドンに詳しくもなかったので、地名が出てきても土地勘も特にないわけだから、丁寧に書かれている土地の詳しい紹介などへの理解も薄っぺらくて、魅力が半減になっていたように思う。そこで、ちょうど地図を描くためにグーグルマップをパソコンで開きながらの作業を続けていたから、辿ってみたくなったわけだ。
さあ、辿ってみようではないか!
池田満寿夫の表紙で丸谷才一の名訳の文庫本をひも解きながらグーグルマップを見る。これは楽しい。最近しばらくはずっと朝からピーター・バラカンのラジオ番組を聞きながらこんな事をしていたわけで、楽しくて仕方がなかった。「〜〜から〜〜は最もうつくしい景色で」と書かれていれば、畑の様子をググッと近寄って見たりする。なんてすばらしい時代だ!テムズ川がぐにゅぐにゅと曲がっていく様子もひいてみたり寄ってみたり。『オックスフォードのあたりは難所である』と書かれている場所を見ると、確かに曲がりくねっていて大変そうだ。大きな公園がずっと右岸に続くと書いてある場所を発見すると興奮したりするわけです。
が、この小説はほとんどがちょとしたことから横道にそれていく話が多くて、まあ、そこがおもしろいのだけど、これが今のブログのような感覚なんだなあ。時代を超越しているというのか、人間の考えることというのはそう進化していないのだな、とか感慨深い。時代背景をしらなければで現代小説と思う人もいるかもしれない。実はシャーロック・ホームズの時代、19世紀末の小説なのだ。なのに、やってることも考えてることも今と変わらないのだ。ただ、車社会ではなく遠出はドライブではなくボートが主なのが優雅この上ない。
そして、シティから合流する一人はボート用の派手なブレザーを着て現れる。というのも今になってわかる部分で、ボート用のブレザーというのは縁取りのある派手な色合いの縞もようだったりする、というのは制服本の関係で写真をたくさん見せてもらって知ったことだった。彼の荷物には雨傘が入っている。そして、わたしは読み返していて凄い一文を発見してしまったのだ。
それは最初の方に出てくる。美術品について書かれている部分だ。今大事そうに飾られている美術品は、実はずっと昔はただの安物で、赤ん坊が口にくわえていた程度のものだった・・云々、という文章のところだ。そこにこうゆう文がある
『今日の安物は明日の美術品となるのだろうか?柳模様の皿は2000年あたりには富豪のマントルピースをいかめしく飾るのだろうか。』
これはまさにわたしが描きつづけている柳模様の食器のことにほかならない!この小説が書かれたヴィクトリア時代において大流行し、どこの家にも一揃いあったこの食器について、2000年になると、たしかに流行らなくなり少なくなり・・・・そうして捨ててしまう人もあれば、かたやコレクターも多数出現しているという事実。ジェローム氏の予想通りに未来は進んでいる。ただし、マントルピースの中にはガスストーブが入っている。または富豪ならセントラルヒーティングに違いない、がこれは予想できなかっただろう。
1世紀先のことを予想する文章というのはおもしろく、それをちゃんと検証できるまで長く読まれつづけている作品であることも嬉しいことだと思う。
ほかにもこの本には声を出して笑わずにいられない文章があったり、実に格調高い部分があったりで、丸谷才一がうまいとも言えるんだけど、英国に詳しくなってから再読してみてさらにおもしろさが増したのでした。
この話のあとI氏と盛り上がったのは、学研の科学と学習の話。休刊になってしまった。科学が好きだった。ラジオでもその話題が出ていて、付録で大事にしていた鉱物セットが、実は編集部の人がわざわざ山に行ってその筋の人から石を貰ってきて一つ一つ砕いて詰めた、なんて話も出ていて泣かせた。ピエゾマイクなんてのもついていたことがあったらしい。これはおもしろかっただろうなあ。高級品だけれど、関係者が「子どもの未来のために!」と言って格安でおろしてくれたらしい。これも泣ける。これ欲しい。今は大人の科学が売れている。わたしも二つ持っている・・・・大人だから・・・。
では、掃除の再開。そして来年の個展のために柳模様の絵をさらに描くのです。流行のものでもなく、マントルピースの上に飾るものでもなく、柳模様から抜け出した物語です。
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